季節は夏で、外は通り雨。ひとときの涼しさを味わえど蒸し暑い日々が続いていた。
部屋の中では湿気が充満しているように感じられて仕方なくて、なんだか俺は苛々していたのだ。
ベルが鳴って、ドアを開ければそこには古泉がいて、おじゃましますと揃えられた靴を横目にそういえば今日は親が出かけてるなあとぼんやり思ったのだった。
皮膚に空気中の水分がべとべと纏わりつくみたいで鬱陶しい。扇風機をつけて、なぜ来たのかと問えば古泉は笑うばかりで、俺が苛ついてるのを知っていて殴られに来ましたみたいな顔をしていてなんだか腹立たしい。

腕を壁に固定して乱暴に口付ければ、俺の唇も、舌も、指先も、受け入れられるばかりで恐らく古泉にとって何の意味も持たないのだろう。だったら少しは抵抗したらどうなんだ。
「おれのことすきなの?」
皮肉ぶって笑う。ベランダで死んでいる蝉の抜け殻みたいだな。
「ははっ、あったまおかしいんじゃねェ?」
無論挑発に乗るはずもないこいつを、めちゃくちゃにしてやりたかった。そんな気分だった。心なしか沈んだ表情が垣間見えた気がしたが本当にそれは気のせいで今だっていつだってこいつは笑うことを止めない。
「そうですね、可笑しいのかもしれません」
伸ばしても伸ばしても、俺の気持ちも、お前の気持ちも、届くことはない。
だから俺はお前に、ひどいことをする。

ガムテープで手首をぐるぐる巻いて、本音のひとつ吐きやしない口もそれで塞いで、縛って、犯して、それから。それから?
古泉の綺麗な顔がよごれていく。整った顔が、虚しさとか痛みとかそういうので歪んでいく。頭の神経がびりびり鳴って、欲望のまま衝動に任せて、後のことはもうよく覚えてない。

散々やった後、俺はこう呟くのだ。好きだ、愛してる、だから俺のものになれよ。
自分で言っておいて反吐が出そうだ。なんて虚しい、心の籠らない言葉の羅列。
伝わったのか、軽く嘲るみたいに古泉が笑ったので、ガムテープ越しにキスをする。

(お前の傷つく顔が見たいんだ)

そうしたら俺は、お前を抱きしめることができるから。



バルジ