俺の住んでいるところは古泉のマンションの向かいで、窓を覗けばあいつの部屋の中が見える。昼でも夜でもあいつはカーテンを閉めるということを忘れているようで、俺は毎朝、着替えているあいつを見る。ほとんど決まった時間に起きて、おそらく朝食も食べずに眠たそうな目をこすりながら制服を着るあいつを、なんだかなあ、と思いながらも俺は覗くという行為をやめられないでいた。
夜中に明かりがついて、数時間後には朝日が差し込むその部屋に、俺は入ったことがない。いつだってこうして少し離れたところから見てるだけ。

学校から帰ってきて、鞄をその辺に放ってテレビをつけたころだった。今日は機関からの呼び出しがなかったのか、古泉は家に帰宅したようで、しかしいつもと違う様子で部屋を片付けている。隣には人影があった。
(あー、キョンか)
あいつら仲いいなあ、と俺はいくらか微笑ましい気持ちになりながら、なぜかやわらかく胸を締め付けられて、布団の上に転がる。真っ白な天井が見えた。
あいつの部屋にはキョンがいるけど、俺の部屋にはなんもねえなあ。
少し笑って、目を閉じた。もうすぐ夜がやってくる。暗い闇の中、あたたかな毛布に抱かれて思うこと。
(ひとり、遠く、ふたり、遠く)

・・・その日の夜、カーテンは閉められた。



カーテンの隙間