浅い眠りから目が覚めて、寝返りを打つと何かの視線を感じた。ふと上を向けば、椅子に座った古泉がじっとこちらを愛しそうな目で見つめていた。顔が少しむくんでいる。頬に触れればそれはとても冷たくて、ああこいつは真冬の寒空の下で待てと言ったら本当に待っているんだろうなとぼんやり思う。
(寝てる俺をずっと見てたのか、)
飽きもせずに。ストーブもつけないで。

「おいで」
頬にやった手をうなじに滑らせて、引き寄せると古泉の顔は動揺したみたいに驚いていて可愛かった。布団をめくると冷たい空気が入ってきて、さむ、と思わず口から零れてしまった。おそるおそる足を踏み入れた古泉は謙虚にも俺とは反対のほうを向いて、肩を強張らせた。気を使っているのか、端に寄って、布団も恐らくちゃんと掛けられていないのだろうから、も少し後ろ、と促してやる。古泉のお腹に手を回して、背中に顔をくっつける。目を瞑ると少し甘いような匂い。体温と体温の温かさの中で、どろりと泥に還るみたいに意識を手放すときがやってきて、俺は頭のその信号に従った。

もう一度目が覚めたときには隣に古泉がいるはずもなく、ましてや椅子なんてものすら存在しなかった。



夢の話