ぼやりと浮かぶ何も無い景色の中に俺と古泉は居た。陶器ような白さの中俺は目を細める、いや、古泉の溶けてしまいそうな肌の白さにそうするのだった。ゆっくりと瞬きをする古泉は、俺に、また会えましたねと小さく呟くや否やくたくたに萎れた花のように倒れ込んでしまった。プログラム再生に失敗したような最期を遂げた古泉は一度死んで、それからまたふっと春が訪れたときに息を吹き返す。

床にだらりと垂れた古泉に何をするかといえばまずは意識の確認だった。頬を加減して叩いてみる。次に、古泉、と名前を耳元で呼んでやるが返答はない。ただの昏睡状態にある古泉に例えば悪戯のように何をするかと言えばキスをするなんて可愛いことは絶対にしない。俺はその喉元を食いちぎってやろうと歯を宛がった。やわらかな肉の感触が口いっぱいに広がって、とうとうそれを噛み切れないでいたのでせめて歯形だけでも残しておくことにした。赤く付いた歯の痕跡を舌でなぞる。犯すことを楽しんでやろうと調子に乗った俺は古泉の制服を脱がし、丁寧に丁寧に慈しんだ。

俺は俺以上に誰かを愛しているわけではない。これはただの陰湿な嫌がらせだ。好きだとか愛してるとかそういった感情は疎ましいだけでプラスになったことなんか一度もない。こんなふうに誰かを愛し殺めてしまうのだから病的だ。愛だの恋だのというのは一種の病気なのだ。狂っている。

「好きだよ、古泉」

古泉の手の先がかすかに反応したので、俺は舌打ちして魚のような腹に蹴りを一発ぶち込んでやった。
「やれやれ、ばれては仕方ありませんね」
平然とした顔であばらを押さえる古泉に俺は心底苛立ちを覚えていたけれど予想できなかったわけではないので俺は俺の予想範囲外の行動を実行に移すことにした。

目を合わせて、自然に唇を触れ合わせ、ゆっくりと舌を差し入れ、絡ませる。すでにもうそこで薄く目を開いている古泉は俺に不信感を募らせているようだった。顔を離せば、今までは踏むか手で扱うかしかしたことのなかったそれに舌を這わせ、口に含ませる。
「えっ、ちょっ・・」
動揺した古泉を見て俺はほくそ笑んだ。髪の毛を掴まれても、その力が強まれば強まるほど妙な優越感が沸いてくる。ああ可愛いなあと思ったのは古泉が俺の口に出すまいと懸命だったことだ。
「も・・離して、お願い、」
ほんのり染まった頬の色づき、苦し紛れの喘ぎ声、何よりその流し目がたまらない。キョンくん、と名前を呼びながら果てた古泉は結局俺の口の中でいってしまった。ごくりとそれを飲み込んだ後、笑う古泉を見て俺は急激に具合が悪くなった。青ざめるほど、心の具合が、だ。なぜならば不本意にも気づかなければよかったことに気づいてしまったからだった。


「これも計算の内、か」

全部演技だったのだ。日頃の行いが悪いせいかな、と俺は嘯いた。
・・・完敗だ、俺の負けだよ古泉。



まだ愛じゃない