ゆるくぼやけた、光が漏れていた。
何度か目を擦ってみたが輪郭ははっきりとせず、何らかの像が浮かび上がるようで、その感触と手触りを思い描く。手は届かない。
見えるものがすべてではなく、聞こえるものもまたすべてではない。
掴むことのない、鏡を手にしたようだった。覗き込めば何が見えたろう。温度さえ不確かで、滑る、伝う、飲まれていく、ひとつの滴が、零れる。
夕日のような橙を灯した、眩い海だった。瞬間にとぎれる映像と、誰かの表情、読み取れない意識、食い込んだ爪の先。
首に巻きつく手が凍てつくように冷たい、なのにひどく生温かい、純粋な汚れのないナイフを突きつけられたようだ。

遠くから誰かの声が聞こえてくる。やわらかな何かが、頬に触れた。薄く広がる空の元には人間が蠢いている。それが最後の景色であった。
薄く目を開けると、西日で満たされた、部室の机の上だった。横しま模様に肘を付いて、なんだかうとうとしているうちに、悪い夢を見た。そう呟いた先には微笑を称えた青年が、斜め右を見やり、口元を緩ませる。何もかもを見透かしたような顔だった。
見つめ続けて一度だけ瞬きをする、冷たい海の中にいたような気がした。だからそこへ行こうと言った。彼が笑った。



冬のリヴィエラ