いまは、と薄い唇がそう動く、目を瞑っているから見えるはずもないその瑞々しさを想像する。
「何番目のあなた?」
長門有希の口からその言葉が紡がれたわけではなく、脳を通してそんな声が聞こえた気がしたのだ。それは本当に気のせいかもしれないし、残酷なほど透き通った目が僕自身にそう悟らせたのかもしれない。
「言葉にする必要もないみたいですね」
僕は僕を演じなければならない、というのは涼宮ハルヒの前だけであり、今ここにいる彼女の前で笑う必要もなければ取り繕うこともないのだけれど、いつのまにか癖になったのだろう、口の端を吊り上げることをやめようとはしなかった。
「行きましょう」
そうだ、思えば辺り一面、背の高いひまわりが咲き誇り、僕たちを覆い隠そうとしていた。手を差し出しただけで彼女はその情景に埋もれてしまう。それほど彼女の身体は小さくて、放って置けば何時間でも立ち続けていそうな、そんな当たり前のことを今更ながら思う。
どこか幼さの残る少女のような横顔が、遠くの青い空を見上げて、目をつうと細めたような幻覚に陥った。
胸をぱっくりと割ってしまうより早く彼女は僕の言動を理解してしまうのだろう、そっと垂れ下がったままの白い手を取ればじっとガラス玉のような瞳に覗かれて、不意を衝こうとして不意を衝かれたような、そんな気分になった。
彼女は僕に、どこへ行くのかも問わなかった。僕も彼女に、何も聞かなかった。

(たとえば昨日の僕が今日の僕でないとしても)

おそらく誰かが通ったであろう道を進む、ゆっくりと歩き出したその先にはひまわりを抱えた彼女、それからきっと。



ブルーサマー