季節が一周巡って、俺達はまだこうして二人きりだ。
何もない簡素な部屋でぼんやりとする。古泉の家に着いたのは夕方だったので、窓から薄い橙の光が差してきていた。涼しい風がいくらか吹いてきて、俺はワイシャツの襟元を緩める。後ろのテーブルの上にはグラスが二つ。古泉が先ほど用意していたものだ。目を細めて遠くの景色を見やると、地平線の向こうに滲む赤い夕日。
古泉はいつも一人で、こんな灰色で塗りつぶされたような部屋で、ここから、何を見ていたんだろう。隣にそっと座り込んだ古泉は、不思議そうな顔をしてこちらの様子を窺っている。
消えていく光が眩しくて、俺は目を瞑る。瞼の裏が赤い。
空の向こうへ消えていく光は次第に深い青へと姿を変えて、世界を覆い尽くしてついには消えてしまうのだ。

なあ、何が見える?そう小さく問えば、古泉はきっと戸惑った顔をしているに違いない。
(俺が見えてる?)
手を伸ばせば触れられる、生温い温度がそこには確かにあって、答えを聞いてしまう前に、その薄い唇が開くその前に、俺は古泉の選択肢をすべて潰してしまうのだ。
お前の声が聞きたい。本当の言葉を知りたい。でも聞いてしまったらこのままじゃいられない気がして、だから俺は、春が、夏が、秋が、冬が何度終わっても繰り返す。
季節が一周巡って、俺達はまだこうして二人きりだ。



季節が巡ってさようなら