雑誌の入った紙袋のテープをべりべりと引き剥がしていれば、コトンと置かれたマグカップからコーヒーの香ばしい匂いが僅かに漂ってくる。目が合えばにこりと微笑む、想像するに容易いその反応は俺だけに不信感を募らせていく。
どうしてこいつ、笑わないんだろう。最初に思った疑問はそれだった。
ごまかしているだけなのだ、その場に溶け込めればそれでいい。自分の意思なんて重要じゃない、だから尊重もしない。
「お前、自分の本当の気持ちを知るのが怖いんだろう」
(そうして同じように俺のことだって、)

いきなり肩を掴んで、引き寄せてみる。見開かれた両目、垂れる薄い色の髪、その白に近い表情。右に顔を傾けて、顎を突き出すみたいにすれば、唇と唇がついてしまいそうなところで止める。ぎゅっと目を瞑った古泉は何も起こらないことを不思議に思ったのか、そうっと右の瞼を持ち上げる。
「か、顔が、ちかいです」
小さな呟きが、頼りなくか細く消えていく。
わざと近く寄せてみてんのわかんねえ?、低く声を落とせば吐息がかかってしまいそうな距離と温度、戸惑いがちに逸らされた古泉の視線をどう取るかは俺の自由だ。
「お前からは、なんもできねえの?」
そういう規則でもあんのかよ。じりじりとにじり寄るみたいに、未だ平行線のまま、つう、と目を細めてやわらかそうな睫が震える様を見続けていた。

弱った表情を浮かべた古泉は何もできずにただその事象を許容する。おそらくそうする以外に手立てがないように思わせるために。
(そんなはずはないんだ、お前ができないことなんて本当はなにひとつない、)
言葉で挑発して、乱暴に扱ったところで古泉を余計苦しめてしまうだけだとわかっていながら俺は触れたいと望む指先を止めない。

こわばった肩や握りこめられた手のひら、きっと奥歯も噛み締めてそのときを待つ古泉を、待つ。



そのときを、待つ