にせものみたいに鈍く光る黒い車に乗せられてぼくらどこまでも。
助手席に箱詰めされた女はどこか苛々した様子で、頬杖ついて窓の外を眺めている。運転手の新川さんがいつものように優しそうな顔してひしゃげてる。だって隣の女の機嫌は今にも最高潮に達しそう。
こうしているとなんだか家族でドライブに行くみたいで、不謹慎にもそんなことを考えていることに笑ってしまいそうだけれどなんとか持ちこたえる。
僕の姉は彼氏と喧嘩中、まあ倦怠期ってやつですかね。父親はそれを知ってか知らずか姉の素行を見守っている。僕も父さんも姉さんに振り回されっぱなしさ。
表面は平静を装いながら人間なんて頭の中では何を考えているのかわからないものです。
建物とコンクリートの境目、バイパスが長く続く道を車は走る。流れる灰色の景色は線と線が結び合って形が出来上がっているのに、構造まで理解するにはとても早くて追いつけそうにない。そんなの見てたってしょうがないでしょ、なんて顔をしながら森園生は窓ガラスと睨めっこしている。ムキになる大人の女は嫌いじゃないと古泉は思う。だってそれって子供みたいで可愛いじゃない。
現実問題も仕事もうまくいった試しなんてひとつもないわと投げやりに吐き捨てる彼女の将来の旦那は愛妻家。
ちゃんと食事とってますか?カルシウムもビタミンも足りてないみたいですけど。
気が付けば口ばかり達者になってしまった僕は車を降りればもれなく回し蹴りが待っている。
これから行くところは歪んだ世界、空だって飛ぶことのできる明るい世界、悲しい未来。

損な役割を果たした後に青い化け物と友達に成り損なった。つくづくついてない。
コンクリートをいくら破壊しても生まれるものは何もない。ここがゲームの中だったらどんなによかっただろう。ほんの少し前、僕がまだ何もかもを当たり前のように認識し許容できた、彼女と出会ってまだ間もない頃だ。
声を荒げて叫んだって何も変わらないのよ。私達にできることは今のこの現状を維持することだけ。敵が出てきたらやっつける、ただそれだけ。
森園生は積み上げたガレキの城を蹴る。強い目をした彼女の足元は今にも崩れそうだ。ぱらぱらと砂が舞い散るのは本当は彼女が天辺へと続く階段を探しているからに違いない。僕は真剣にそう信じていた。

世界は終焉へと向かい、戦場から帰還した僕達はまた家族に戻る。
どこでもいいわ、山でも川でも森でも海でもいいから、とにかく走らせて。
車へ乗り込み今の今までだんまりだった森さんは、開口一番そんなことをのたもうた。相変わらず無茶を言うなあと口にした覚えはないのに、助手席からぐるりと振り向いた森さんの手が頬をつねる。
わかるんだから、余計なことは言わないほうがいいわよ。
言ってないのに、と心で思いながらはあいと返事をするも、きれいな指先は僕の頬を離れない。間抜け面をさらしているらしく森さんは少し嬉しそうだ。
なんだか家族みたいですね、僕の声は茹ったパスタみたいにふにゃふにゃしてる。
まだお母さんはいないけど、お母さんはできれば涼宮さんがいいなあ。だって僕も森さんも彼女から生まれたのかもしれないし。

結局、途中で寄ったパーキングエリアにて気分が晴れてしまった森さんはドライブを中止にし、僕たちは家族解散を余儀無くされた。



やさしさ家族