「あんたがこんな綺麗な顔してなけりゃ、俺だってあんたのこと好きになんかならなかった」 からかうように近づけられた千の顔に苛立ち、自暴自棄になってそのまま強引に口付けた。誘うように開いた薄い唇の隙間に舌をねじ込んで、唾液を絡ませて味わう。食べ物でもないのにおいしく感じるなんて、どうかしてる。頭の血管がショートしていく感覚と、どこか冷静に俯瞰している自分もいたけれど本能的な衝動は収まりそうにない。 支えていた後頭部から長い髪をかき分け、陶器のように白い頬や、美しい顔のラインを滑らせるようになぞり、ついに大和の両手は首に辿り着く。たよりなくて女みたいに細い首だった。噛みつくようなキスを続けながら、巻きつけた両手にゆっくりと力を込めて、呪うようにすべてを塞いで、そうしたらもうこれでこの人の顔を見ないで済む。……済むのにな。 力を緩めて5秒、千は存外にも作り物のように綺麗な顔をくしゃくしゃにしながら、まるで人間みたいに笑ってみせた。 # 対 象 Y |