美しい男が、俺に欲情して精を吐き出そうとしている。
はあ、はあと途切れ途切れに紡がれる息の荒さが、いつもの彼からはとても想像もつかないので、彼も一人の人間だったのだと改めて実感した。
かくいう俺はというと情けないことに泣いていた。ぼろぼろとみっともなく涙をこぼし、どうしてこんなことになってしまったのか、頭の隅で考えていた。吐き気と快楽による気持ちよさと、いとおしさと嫌悪感でまぜこぜになった感情が腹の辺りでのたうち回っていた。

泣くな、泣かないでくれ、神峰。
切なく儚い声で、振り絞るように刻阪は言うけれど、今となってはなぜ涙が出てくるのかもわからなくなっていた。
後ろの体位のまま達した刻阪は、呼吸を整える暇もなく、顔をぐしゃぐしゃにしながら俺を抱き締める。引き抜くとき、俺の体が跳ねることにも気づかないのか、労る余裕も失ったまま。
やっていることはDVと変わらないな、なんて思いながら、刻阪の髪に触れる。形のいい後頭部をゆっくりと撫でて、ごめん、ごめんと何度も謝り続ける青年が落ち着くのを待った。
彼は、彼の容姿は美しい。髪の毛一本にすら価値が存在するような気さえしてくる。
そんな男がなぜ自分を、とはじめは思った。体を許すうちに、君じゃなきゃだめなんだとほだされ、あまり考えなくなってしまったが、時折その美しさに触れてはっとする。小さな子供のように未熟な精神と、すくすくと育つ大きなからだ。若さゆえの衝動と過ち。

なんで、君は僕を許すの、と刻阪は尋ねる。そのけがれなき眼で、愛を問う。
俺はただただ苦笑するしかなかった。あまりに純粋で無垢な心がまぶしくて、まともに見れやしない。誤魔化すように首筋に唇を寄せて、甘く垂れる髪の、シトラスの香りを鼻孔に満たした。
お前が美しいからだよと、本当の言葉はいつまでも言えないままで。


# 美 し い 男