(手と手、肩と肩、背中と背中、それから。服の上からだっていいんだ) * 手がかじかむ季節になると、出会った頃を思い出す。春めいた、なのに木枯らしの吹き荒れる、冷たく寒い、火傷を負った夏のような季節。 雑誌片手にコンビニから歩いていると、まっすぐに俺を見ている誰かがいて、その時点ですでにそれが誰なのかなんとなく検討がついているのだった。いつもは一言二言あるはずなのに、一歩後ろから足跡を辿ってくるタカヤの頭の中が知りたい。 上がれよ、と俺は指図してやる、タカヤはぼうっとした様子で玄関先で突っ立っていたから、何かあったのだろうかと少しだけ不安になる。 ベッドの決まった定位置に座って、俯いたまま一向に喋ろうとしない。小さく名前を呼ぶと、幼い面影の残った顔がゆっくりと持ち上がる。期待で押し潰されそうになっている目をしていて、思わず息を呑んだ。 わすれられない傷をつけてください、と、タカヤが言った。消え入りそうな声で、虫の鳴くような声で、それは小さく紡がれる。 とうの昔に俺がつけた傷跡はきれいになくなっているはずで、だからそれを繰り返し求めたのだと俺は解釈した。腹の辺りを凝視しながら、どんなふうにアザをつけてやったか、もう思い返すことのないことを、しまったはずの心の引き出しからそっと出してみる。 「見してみ」 タカヤは素直に着ていたトレーナーをおずおずとめくった。少し冷えた体温のまま、さわろうとしたけど、それは違うような気がして手を引っ込めた。 布越しでもこの気持ちは、伝わる。例え俺がお前の中からいなくなるとしても。 両手をそっと背中に回してやると、肩が強張るのが伝わって、それから腕が震えだす。あたたかい、息をしている、生きている。俺は頭を項垂れて鼻を首筋に埋める、清潔でやわらかな、タカヤの匂い。ほんの少しだけ幸せで、だから悲しい。 ぜんぶなくして、最初からやり直せればなんて考えている、そんな都合のいいことがあるわけないんだ。 今この瞬間がタカヤだけで満たされていくのを思いながら、悩みに悩んで、それから笑って、終わりの言葉を口にする。そうすればもうすぐにタカヤに出会うことができるから。 # 忘 れ て も い い よ --- * ホワイトアルバムから拝借してます |