グレーズの瞼 阿部は俺の目を絶対に見ない。俺が阿部のうつろなそれを見ているだけで、目が合ったことは一度もない。そんな俺たちがすることといえば、抱き締め合うことと、愛撫することと、身体を重ねることだ。それは一般的な恋人同士がすることであったが、なんだか奇妙な間柄だと浜田は認識している。阿部は時折、愛しそうに愛しそうにうまく曲がらない俺の右肘に触れる。そのときの阿部の愛に溢れる目が俺は一番好きだ。 するすると開けたシャツの間に指が滑り込む。少しこそばゆかった。阿部の触れ方はどこか乱暴ででも丁寧で、いつか髪を撫でてほしいなあと浜田はゆっくりと瞬きをする。そんなことを思ったせいか黒髪に手を伸ばそうとしたらそのまま捕まってしまい、腕やら手の先を柔く噛まれる。ついた歯形を赤い舌先でなぞられて、その眺めに少し欲情した。 後ろから犯される感じは嫌いじゃない、自分が可哀想な気持ちになれるから。 四つん這いになって、お尻を突き出すような恥ずかしい体勢で、あえぐ。 途中、阿部、と苦し紛れに名前を呼んだ。 「俺のこと、見て、」 なぜだか胸の辺りがぎゅうと締め付けらて、痛かった。 いま阿部はどんな顔をして俺を抱いてるんだろう。一度でいいから正常位でしてみたい。俺のこと、見てほしい。 「ちゃんと、見てよ」 自然と涙がぽろぽろと零れて、ああなんで泣いているのだろうと頭の片隅で思った。 濡れた頬は誰にも拭われることなく乾いていく。 それでも俺は阿部のことを愛しているので、涙が出てしまうのだろう。 (俺のことどんなにひどくしたっていいから、目を見て髪を撫でて) 行為を終えた後、未だまどろみの中にいる阿部を押し倒し、口付ける。 透明な何かが皮膚から皮膚へと伝い、阿部はその温かで冷ややかな温度にゆるく瞼を開けた。 |