君が嫌い 頭が破裂しそうなくらい痛い。火傷をしたときみたいに長引くこの痛みは好きじゃない。がんがん響いて、なんて疎ましいのだろうと思いながら吐き気を抑え切れそうになくて、トイレの洗面所で嘔吐する。鼻に、自分が出したものとは思えない、酸っぱいような、何かが腐ったような匂いがした。 確かに今日は、少し身体の具合が悪かった。その上あれだけボールで痛めつけられればこの結果も当然かも知れない。でも、たかがだるい程度で練習をサボることは不可能だった。どっちにしろ仕方がなかったのか、と考え直す。まだ吐き気と息切れは収まらない。 ギィ、と扉が悲鳴をあげた。逆光が目に眩しい。 「隆也?」 聞きなれた声が耳に残って、その存在を知る。咽が焼けるように痛い。洗面器の端をつかんで、胃の底から這い上がってくる異物におびえる。 「っは・・、」 大きな波が押し寄せてきて、その勢いに身を任せた。長い嘔吐の後、きっと俺は苦い顔をしていて、それでも背中をさすりもしないこいつが憎かった。この臭気を感じて手も足も出せなければいい。せいぜい嫌えよ。 「っ・・、見てないで、さっさと用でも足して帰ったらどうなんですか」 一息で言うと、涙で目の前がにじんで見える。逆光も手伝って表情が読み取ることができない。 「謝らねーからな」 その言葉にむかついたけれど、今はそれどころではなかった。頭は相変わらず痛い、ぐらつく視界、立っていられない。身体ががくがくと震える。悪寒がして、しゃがみこむこともままならない。 (倒れ、る・・) ぼんやりとした意識だけがあって、何かに支えられている感触があった。 「ごめん」 直に響いた声、透き通った言葉、太陽の匂いがする。そのとき初めて抱きすくめられたとわかる。どうしてこんなにあたたかいのだろう。 胸が、甘く痛んで、軋んだ音がした。 (優しくなんて、するなよ) 「あんたが、嫌いだ。」 呟いた声が届いたかはわからない。聞こえてなくたっていい。ただこの感情を忘れたくはなかった。 でも今は、この優しさに甘えていようと思った。 |