青星とクエーサー


俺が2年のころの監督は今とは違う監督だった。長年監督をされている方で、生徒からは絶大な信頼を受けていた。その監督がやってきて数ヵ月でこの学校を去ったのには理由があって、 そのことを知っているのはもう引退した先輩数名と、俺と、準太だけだった。

夏の明くる日、部活を終えた俺は忘れ物をしたことに気が付いて、部室のドアを開けようとした。すでに辺りは暗く、こんな時間に残っている人はいないはずだった。ドアノブを回した瞬間、ガタンという物音がして思わず手を止める。監督、という小さな悲鳴が聞こえた。準太の声だった。
「いやです、やめてください」
隙間からおそるおそる覗けば、準太は縄のようなもので縛られ、衣服を脱がされていた。次第に監督の手が準太の身体を汚していく。性器を握られた準太は頬を赤く染めて、あっ、と小さな唇を震わせた。
俺はどうすることも出来ずにただその情事を見ていた。準太は監督のお気に入りだった。

その行為を見た夜、俺は初めて準太で抜いた。自然と罪悪感はなかった。


翌日、その翌日も行為は続いた。見ていたわけではないが、赤紫に変色していく腕の痕を他の部員も気づき始めていた。
「準太、どうしたそれ」
聞かれた瞬間準太は少し肩をびくりとさせたが、笑ってこう答えた。
「なんでもないっすよ」
険しい表情の先輩に俺は正しさを見るようだった。
「監督に、なんか、されてんじゃねえのか」
準太は首を振った。そのときの先輩の目がひどく真っ直ぐだったことを俺は鮮明に覚えている。

その放課後、勇敢な先輩は犯されている準太を助け、あたたかな抱擁と共にこの事件は終焉を迎えた。




今もたまに思い出すことがある。無理をして笑う準太を見ると、一発殴ってやりたくなるような、または心から軽蔑したくなるような気持ちになる。だってあのとき準太は気持ちよさそうに喘いでいたじゃないか。
(そんなのってよごれてる)
部活を終えた後、あのころと同じ場所で、同じ時刻でじっと準太を見つめる。汚れている、お前に触りたい。頬から耳へとそっと指を這わせると、伏せられた睫の影が伸びる。唇を触れ合わせて、そのうち口の間に舌を滑り込ませ、貪りながら薄く目を開ける。涙でぼやけて何も見えない景色のようだった。
「どうして抵抗しなかったの」
今も昔も、責めるように聞けたなら俺は純粋に準太のことを愛せたのだろう。唾液で濡れた準太のそれがぎらぎらと輝いている。
「ならどうして、あなたはあのとき助けてくれなかったんですか、」
今にも押し潰されそうな表情で、準太は涙を零した。

「汚れてるお前が好きだからだよ」

傷つけた言葉と歪めた顔はなんと美しくも醜い。
ああ、もうすぐ夏が終わる。濃い色を放つ匂いは俺の心を膿ませ、いつかの俺を殺してしまった。