あの人が時折狂ったように開眼させた眼差しを向けて実に散漫な暴力を振るうことを俺はとてもいとおしく思っている。
あの人が己の愛するものを捨てたその手で俺を殴ってその悲しみに満ちた目で俺を圧倒させてその絶望で打ちのめしてくれればそれでいい、俺がここで呼吸する意味や理由はここにあって。涙で濡れた頬はあまりにみずぼらしくて思わず鼻で笑ってしまいそうになる。
ベッドのスプリングがぎしぎし唸る。馬乗りにされながら俺は何を思うんだろう。高い高い絶壁の淵へと追いやるくらいの破壊力と何もない何もかもをなくした感じやはりそれは絶望のような。
俺はこの人のすべてを理解した気になっていたのだ。俺のすべてがこの人のすべてであったように。
(俺は彼の何をわかっていたというのだろう?)
今更になって気づく。失うもなにも、俺もあの人も最初から何も持ってなかったということに。

まるで野球をするときのようにコースは決まっている。
殴られて痛みが麻痺し出したころにはあの人の苛立ちは治まっていていつしか空いた心の穴を埋めるみたいに俺を抱きしめるんだ。
「自分の後ろを歩く影みたいに追ってくるんだずっとずっとずっと」
過去を捨て切れていないから、あなたはそんな風に自分の罪を背負い続けるのでしょうね。
(俺はあなたに何もできません。できることといったら球を受けることと殴られることくらいです。)
先ほどからぎゅうぎゅうと締め付けられて体中が痛いのに。切なさが連鎖して俺たちを繋いでいる。
「どこへもいかないからはなして、おねがい」
細い糸を切り離すように俺は言う。
放っておいたら腕が壊れてしまうかな。それもいいかな。もうわからないや。

青ざめた唇が小さな声で俺の名前を何度も何度も呼ぶから、だから、



そ  ら  の  孤  独