沈黙のイエスマン いつもうまくかわされる。梶山はたまに俺のことが嫌いなんじゃないかって思う。今だって俺が好きだと喚いたら気だるそうな顔をしてそう、としか言葉を返さない。梶山は俺に冷たい。浜田のことが好きだからだ。 唇を噛み締めて、すべては叶わないのだと頭のどこかで理解してて、 それでも往生際の悪い俺は言ってはならないことを口にしてしまった。 「浜田は卑怯だよ、」 梶山はいきなり俺の胸倉を掴み、壁へ押しやった。 鈍い音がして、焦点の合ったはずの梶山の目は見たこともないそれはそれは美しい龍のようで、恐怖と驚愕とで身体が思うように動かない。 そうして握り締められた拳が頬に向かうのがわかって、俺は観念して目を瞑る。 「そういうこと、もう二度と言うな」 痛みが衝撃が走るはずだったそれは梶山の心の痛みになって、俺に伝染した。胸の奥のやわらかな部分を握りつぶされたような、ひどく繊細で、感傷じみた小さな傷だった。その痛みは焦げて、いつかまっ黒になる。鉛のように堅く固められた感情はいつか飲み下すこともできなくなって、永遠に彼を縛り付けるだろう。 梶山が手を離すと圧迫されていた喉が呼吸を取り戻し、頭の中が真っ白になり力が抜けて、ずるずるとその場に座り込んでしまった。無力さを称えた腕がだらりと垂れて、俺の目前で立ち竦んでいる。 「・・んでさ、梶が俺を好きになってくれればそれでまるく収まる話じゃんか、」 誰一人として報われない。ぼろぼろと涙ばかり零れて、顔の輪郭が溶けそうになるまで泣いて、俯いたその歪んだ面は俺の醜さを表していた。 「なんでうまくいかないの、おれがいけないの、ねえ」 しゃくりあげながら、いつか梶山が俺に振り向くことばかり願っていた。 弱弱しく嘆いた声は行き場をなくし、ゆらりゆらりと空中を彷徨う。 そうして息絶えた誰にも届かない声をいつか梶山が俺にくれればいいのに。 俺はいつまでもその言葉を言えないでいた。 |