それに自分が映っているなんて考えたこともなくて、少しだけ、覗いてみたいと思った。




落ちかけた日が沈む頃、気がつけば二人、手を繋いで歩いていた。いつだって外に出かけるのは彼の唐突な思いつきだった。
ぽつりぽつりと言葉を交わしながら、あたたかな手のひらの感触だけが確かにそこに存在した。吸い込んだ空気が生温くて、来る前の、ああ夏が来るなあ、っていうあの感じ、春が終わり青の咲く季節。
(15度目の夏、俺は、笑えていますか)
手に力を込めれば、こちらを振り向いた彼が、目元をふっとゆるませる。途端に胸が締め付けられて、こんな顔を見たのは本当に久しぶりだったから泣きそうになって、俯いた。
遠くから虫の鳴く音が聞こえ始め、いつしか暗闇にふたりぼっち。世界の終わりみたいだ。




俺はその夜、彼の瞼に触れる夢を見る。垂れた黒髪をなぞるように掻き分け、ずっと欲しいと思っていたその目の色を想像し、ふるえる指先で、やわらかな眼球を覆う皮膚に触れるのだ。

右の手の先から開けた視界に映る俺の姿は、夜の闇に溶けて、消えた。