何色が好きか、と聞かれた。はぐれないように手を繋いで、前を行く総士が振り向きざま、そんなことを唐突に言う。からんころんと下駄を鳴らしながら数歩歩くと、何を意図しているのか気がついた。
「青がいい」
総士はふっと笑って、わかったと言うなり屋台に向かい、ふたつのそれを持って帰ってくる。ぱっと離された手を名残惜しく思いながら、一騎は差し出されたものを受け取った。ブルーハワイのカキ氷だった。
しゃくしゃくと、広がったストローの先で崩しながら、きれいな青をすくって口に入れる。夏の熱気は夜になっても消える気配がなく、じんわりと背や首筋が汗ばんでいるくらいだったので、その冷たさがしみた。
「おいしいな」
ああ、と頷く総士も満足げな顔をしていたので、一騎は嬉しくなりながら、同時に祭りが終わりに近づいていることを寂しく思った。
祭りの音頭に合わせ、提灯の下で輪を作っている人たちをぼうっと眺めていた。そろそろ灯籠を流しに行かなくてはならない。
「舌、青いかな」
何の気なしにそんなことを呟けば、総士は少しの間黙って、林の奥の草むらに俺を誘導した。
「見せてみろ」
またしても総士は唐突に言うので、何のことか一瞬わからなかったが、少しして舌のことかと理解し、素直に従った。総士の目がいつもより熱っぽく、まるで熟れているような感じがして、胸がどきどきする。特に疑問も持たず舌を伸ばした一騎は、そうしも、と目で訴える。
あ、総士の口が開いたなあ、というところまでは覚えていて、あとは総士の息を吸う音と、顔が近づいてきて、目の端でその青さを掠め取ったと思えば、あっという間に舌で舌を絡め取られていた。
びりびりと脳天を貫くような衝撃と、その脳をとろとろに溶かしてしまうような甘い痺れが一騎を襲った。わけがわからないのにただただ気持ちよくて、飲み込めない唾液が口の周りに垂れていく。みっともない、嫌われてしまうかな、でも、総士が求めてくれている感じがする。薄目で総士の表情を見ようとしたけれど、どきどきと激しい鼓動を打つ心臓が痛くて、なんだか立っていられない。腰が砕けてずるずるとその場に座り込むと、欲望に掻き立てられた総士の視線が、一騎を見下ろしていた。

再び手を繋いで歩き出して、その背中を追っていた。その目、なおせるのか、と一騎は問い詰めたかったけれど、他にももっとたくさん聞きたいことがあって──例えばさっきのあれはなんだったのか、とか──それらを思い返すたびに無性に恥ずかしくて、俯くことしかできない。
触れた手のひらがいつまでも熱くてたまらない。総士は今、どういう気持ちでいるんだろう。
たくさんの言葉を飲み込んでいたら、ふいにあのとき見えた一瞬の青を思い出す。からんころんと、来たときと同じように下駄を鳴らしながら、自分の舌が本当に青かったのか、とうとう聞きそびれたなと一騎は思った。

一瞬の青