ソファーに凭れた、なめらかな背骨のことを考えていた。黙っているだけで何をするわけでもなく、自然と手と手が重なり合う。
「セックスしようか」
唐突に切り出されたそれは俺の胸の内を大変動揺させた。
「え?」
目を大きく見開いて思わずこぼれた言葉は新一を傷つけてしまったに違いない。そんなつもりじゃないのに。
「わり、なんでもね」
誤魔化すように、頭をぐしゃぐしゃにかき混ぜられてますます混乱したが、新一はなんだか寂しそうに笑うので、自分の顔の表面がますます歪んでいくのがわかった。キスはした。どちらからともなく、流れや雰囲気でそうなった。ふたりとも特に理由は考えなかった。好きとか愛してるとか、そんな言葉は必要なかったから。
キスしてみようか、と俺は言った。
「もっとお互いを奪い合うようなやつ」
少し迷って数秒で唇は降りてくる。抱き寄せられて、あ、新一の匂いがする、と俺はぼんやり頭の隅で思った。熱い舌先、感覚が犯されてく、目が開けられない。呼吸を乱しながら顔を離すと、じんわりと身体が汗ばんでいる。ふいに首筋に顔をうずめられて、抱きたい、と掠れた声で新一はそう言ったのだ。

「嫌だったら言って」
すぐやめるから。
こんなに間近で、真剣な眼差しで言われたら女の子はたまらないだろうな、と背筋を震わせながら思う。
果たしてこの行為が正しいのか誤りなのか俺たちには判断がつかない。長い指先が腹部から胸を撫でていく、ベッドに横たえた俺は羞恥心からか視線を泳がせた。
新一からは色気というものが全身の至るところから漂ってきて、別の生き物のようで恐ろしい。同時に美しいな、とも思う。有無を言わせないそれはただただ。
「あんま顔、見んな」
真っ直ぐ射るような、青い瞳と目線がかち合う。溜め込んできたなにもかもがなくなりそうだ、俺はなんでこんなことしてるんだろう。腕で泣きそうになっている顔を隠してしまうと、やんわりと手首を掴まれた。
「なんで?見せてよ」
俺にぜんぶ見せて。
そうやって懇願するように耳元で囁くなんて、卑怯だ。全てを奪おうとしている新一は、ずるい。明け広げてしまってもいいけど、あんまりきれいなものじゃないからなあ、と快斗は一人言ちた。
俺の中の父さんだけが、思い出で一番美しく、今もある。誰にも覆されることなく、ここに。
何もかもを手にしてるお前にとっては、珍しいものに見えるかもしれないけど。

「真実をくれたら、俺のぜんぶをあげる」
新一の手のひらを胸に押し当ててみせる。そのままふたり、小さくキスをした。
まだしばらく俺の心臓は鳴り止まない。

白日