俯せた机の上で、ふと目が覚めた。 「俺」って一体誰だろう? 誰もいない視聴覚室でひとり席についてスクリーンを眺めてる。懐かしい思い出ばかり、俺の17年間のすべてがそこに映し出されていて、それをただぼんやりと見ているだけ。自らの視界には自分の顔は映らないのだから、自分のことなんて知りようがない。俺は笑ってたかな。泣いていたかな。 俺には親友と呼べる人間はいない。心を預けるなんて誰にもできなかったから、蘭がいたから、他には何もいらないと思ってたんだ。 画面に飽きて指で白い机を引っかいた。影は追っても、跡は残らない。こうして最後の冬は溶けてなくなってしまった。誉められるべき美徳とこの世の真理。 「なあ、俺ほんとは工藤新一ってんだ」 (名前で呼んでくれないか) 自分を構成していたものを忘れて殺して、もう一度思い出して、死にたくなるんだ。いつも。手探りで俺は自分自身を探してる。 そのまま瞼を落としてしまうと、耳元で声が聞こえた。 「工藤新一さん」 抑揚のないように努めたそれは、自分のもののようにすら思えた。そうやって何度か名前を呼ばれたけれど、胸が押し潰れてしまいそうで黙っていた。そっと背後から抱きしめられて、誰かの心臓の音がした。美しい音楽と、ジャケットからはみ出たシャツの袖の色。俺だけが知ってる手首の匂い。 「工藤」 誰にも届かなくてもいい気がした。だから俺は目を覚ますことをしない。 ガタンと引かれた隣のパイプ椅子の上で、きっと頬杖ついて目を細めた彼は笑ってる。 やさしく嘯かれる言葉はすりかわる、そうして重なっていく。 「名探偵、」 切なかったその響きのぶんだけ、忘れないだろう。生き抜くだろう。画面に映る未来が俺を覚えていなくても。お前のその手袋の下に隠された指先が、もう冷たくなくなってしまったとしても。 |