※捏造注意※スガさん好きはどうか読まないでください。人格が破綻しています。



新鋭なポップカルチャーたちに告ぐ。人は、言葉で人を殺せるだろうか?
失意のどん底に沈んでいくようにそう考えていたのはレギュラーから外されて少し経った日のことだった。天性のバレーの素質を持つ影山飛雄は、一年生としての自覚があるようで、俺、菅原孝支を先輩として慕ってくれている。そんな"トビオ"の素直な反応に誰一人として疑問を抱かなかった、俺という一人を除いては。どうしてお前はそんなに天才なのに、ラインを下げてこの着地点までおりてきてくれるの?点として比較してるのがそもそもおかしいのか、それでも俺は王様と呼ばれていたお前に少しでも指図されてみたかったよ。
自室に招いたら、はにかんだように嬉しそうに、頬をじわりと紅に染めて笑った飛雄。なあその笑顔、写真に収めて破ったらどんな顔するんだろうね。
何の疑いも持たずにやってきた飛雄は少しそわそわしながら俺の家具やきれいに整理されたファイルなどをまんべんなく見て、想像通りの部屋です、とやわらかな声で言った。お前は俺の何を知っていてそれを言うのか、お前に対する劣等感を知ってもそんなことが言えるのか、と口にしてしまわない、のは俺のやさしさだろうか。いいや、違うな。そうやって俺はいつだって自分だけが大切で周りの目を気にして関係を壊してしまうのが怖いんだ。沈黙が長い、バレーボールのできないこの場所では俺たちはいずれ窒息し、存在価値を見失ってしまう。
録画したビデオつけるねと言うと、はい、と小さく返事をしながら飛雄は俺が注いだ麦茶に静かに口をつけた。毒でも入っていたらどうするつもりなんだろう、俺だって今の今まで思いもしなかったことだけれど。去年の試合が録画された映像を目に映す行為を淡々としながら飛雄の目はきれいだなあとかそんなことばかり考えていた。王様だったときの飛雄はどんなに凶暴な目をしていたのかな。ああ、そんなにブラウン管ばかり見つめていないで、少しは俺のことも気にしてほしい。
「ねえ飛雄」
二人きりのときにだけ、俺は彼を名前で呼び捨てにできるのだった。飛雄は不思議そうに首を傾げる、その無垢な瞳で何にも知らないまっさらな心で俺を見る。
「俺のこと、好き?」
えっ、と飛雄は流石にためらって、迷いながらそれでも、数秒後には律儀に敬語を崩すことなく、はい、と返事をしてしまうのだった。つるりとした眼球の、あまりに若い、幼さの残る顔立ちのまま。ねえそれってYESだよ、誰にでも言っていい言葉じゃないってわかって言ってるのかな。
そっか、と言って俺は飛雄の腕を掴んで、近くの壁に押しやった。
「……どうしたんですか、」
飛雄の動揺が色濃く見えて、俺は今すぐにでもこの場で腹の底から笑ってやりたかった。誤解してるよ、飛雄。最初から最後まで俺はお前が思っているような人間じゃあないんだ。無抵抗な白い腕、すらりと長い手足。このままへし折ってやれば、飛雄は一生分の恨みを俺にくれるかもしれない、100パーセント以上の感情で俺に向かってくるだろう。でもきっと俺がレギュラーのポジションを奪われるよりもずっとずっと重たく、思い知った頃には灰のように真っ白になって絶望を知る飛雄もたやすく想像がついてしまうから。
「及川さんには、みせたんでしょ?」
ぜんぶ、あげたんでしょう?
自分の核心に触れてしまうと、想像以上に胸の内側が膿んでどうしようもなかったのだなと、ぎゅっと掴んだ腕の力を強めて、飛雄の顔が俺だけしか見えないようにして、痛みすら覚えながら俺は言った。
セッターの座、そう小さく言葉にしてしまえばあっという間だった。
「俺にはくれないなんて、不公平なんじゃないの」
じわりと滲んでいく涙を見られたくなくて、その細い肩に頭を乗せてしまうと、全身の力がずるずると抜けていった。
ねえ飛雄、熟れすぎた果実がどうなるか知っている?
呼吸したらすぐに信号機は変わる。緑と青の入り混じるネオンの点滅、あなたの口からスピーチを、どうぞスピーチを。
俺が溢れんばかりに抱え込んだ劣等感なんて君はあっという間に手放してしまえるのだろう。そうしてはじめて気づくんだ、追い抜いた振り向き様、うしろでぽつんと立っている俺という存在に。
その才能があれば、その強靭な精神があれば、腕が折れたって諦めないだろう、まっすぐに前だけ向いていられるだろう。
(ヒリヒリした気持ちでいさせてよ)
なにもないからなにかあるところまで。足をもがれて溺れているとしても、氷の上でならどこまでだって自由だ。サーブの打つ音もシューズの擦れる音も外野のノイズも喧騒もない。声を削ぎ落とした形で提唱する、目はもう遠くまで認識できない。心の中の風景ごと、数年越しの私の夢を叶えてあげよう。
皮肉にも自嘲するように笑う俺を見た飛雄はただただ不快そうに眉をひそめているだけだった。
徐々に薄い唇が開かれていく様を見届けてしまえば小さな雫が一滴の海となって俺の心が消滅するだけ。もう誰も傷つかなくていい。彼の心は穏やかな湖のように寡黙だ。
黙れ世界