安っぽいボロアパートの一室で、切れかけた蛍光灯をぼんやりと眺めた吾代はまるで遠く長く時を見据えたように立ち尽くしていた。ぱちん、ぱちんと明滅するそれを自分たちのように思う。内側に籠った熱が冷め、やがてこの世界が黒く塗りつぶされることをひたすらに待ち望んでいた。なあ、と苦虫を潰したかのような顔をしているなんて気がつかない吾代はそのまま振り返る。
「お前にとって、俺ってなに」
答えなんてあるわけがなかった。もともと空白しかなかった距離をより遠く、明確にしてしまうと傷でしか成りえないそれを口にした。整った顔が嘘みたいで、目なんか瞬きしてても死んでいてこの世の生き物とは思えない。思えないそれを俺は愛しているというのか。
ありとあらゆる重力が降り注いでいるようで、頭やら肩やら何やらが重みで潰れてしまいそうだ。睨んだところで意思疎通は叶わないので、一息吐いて唾を飲み込む。
「なァお前さ、なんでそうなんだよ」
こんな奴のことなんかどうでもいいと思えたらよかった。自分でも感情の整理がつかない。適当に暴力で片付けてそうしたらこいつはまた笑って終われるのに、俺にはそれができなかった。右手の爪が手に食い込む。
なんでそんなふうにしか生きれねェの、嘯けば、笹塚は薄気味悪い笑みを浮かべてなんでだろうね、と今にも光るのをやめそうな蛍光灯を見やる。
この世界が黒く塗りつぶされるまで、あと1秒。


あと1秒で