好きにしていいよ、と心も抜けたような声でまるで死人のように渇いた目で笹塚はちいさく瞬きをした。戸惑いの表情を浮かべた吾代は眉を顰めて目線を逸らす。それを察してか笹塚は吾代の服を脱がしにかかる。嫌なら殴って抵抗して、と呟いて薄い舌を伸ばしその赤を皮膚に塗りつけていた。
「お前さ、そんなことして楽しいわけ」
問えば、笹塚は楽しいよ、と息もしていないような喉を震わせて答える。それじゃ本当にただの売春婦じゃねえか、と吾代は毒づいたが言葉にはしなかった。言ってしまえばまたそうだよ、と笑いも泣きもしない顔でそう呟かれるのだから憂鬱だ。
「もういい、」
持て余した熱を放てば肩が上下して色づいた頬が鮮やかに染まっていた。吾代は何をしていいのかわからず、息を整えて口を噤んでいた。そうして考える。耐えかねて、手を伸ばそうとした瞬間、笹塚の肺のふくらむ音がかすかに聞こえた。
「なあ、俺笑えないんだ、だから笑えるように殴ってよ」
薄紫の唇の動きが遅く感じられて、そのやわらかな声は俺の耳の奥をじんわりと侵す。意味を理解したときには目を少し見開いて、それでも拒むことは絶対にしない。
(それがお前にとっての愛だって言うんなら俺は何だってしてやるよ)
肩に手を掛けて、右手を握り締めて、3、2、1

汚れることでしか笑えない可哀相なこいつを俺は愛す愛して愛して飽きたらいつか殺してやるよ。
「ねえ俺、笑えてる?」
笹塚は床にキスをしているような格好で、死んだ目をして、笑った。


春 歌