どこか空虚な穴だった。白い光でも黒い闇でもない、漠然とした白い闇の中、ぞっとするほど冷たい手が喉元を掴む。掴むというほど強くその手は白く握り込められ、両手は金縛りにあったかのように動かない。誰が一体、と頭の奥がちりちりと焼けるように痛んだ。薄く開いた片目がその手首の先の人物を映そうとしたけれど、辺りは空白だらけで何も見えやしない。ひどくくだらない被害妄想じみた夢だった。

背中に張り付いた汗に不快感を覚え、ぼんやりと視界に白以外のものが見当たるようになる。ゆっくりと起き上がると、唾を飲み込み、息を吐き出す。たったそれだけの行為にどうしてこんなにも勇気がいるのだろう。
(どうやって息をすればいい、どうやってこの世界で呼吸を、)
涙は出ない。最後に泣いたのはいつだったかな。目線を下に落とし、何かを確認するように喉に手を当てて、祈る。すると異質な気配を感じ、振り向くとそこには無表情の笑みを浮かべた悪魔のような男が立っていた。どうしてここに、という言葉を思うこともなかった。いつだって気がつけばそこにいるような謎の男だと知っていたからだ。ぐっと近づいた距離に妙に歪んだ口の端、その生気のない、それでいてぎらぎらと輝くような矛盾を持つ目で目を覗き込まれて、俺は一度瞬きをした。見つめ合った黒い眼球に、すべてを見透かされているような気持ちがした。そうして温度のない滑らかな指の先が首に触れると、俺はその心地よさに何もかもを預けたくなってしまう。
(普通の人より何か、何かが欠けてしまっているから、そのぶんを補おうとしているだけなんだ、)
「・・・許してよ、」
振り払うように手首をゆるく掴んで嘲るように笑うと、やさしい手がそっと頭の後ろを撫でる。死んでしまいたいとさえ思いながら、こうして俺は生きながらえてしまうのだろう。

明日を堕としても