かっちゃん、と呼ぶあいつの声が嫌いだった。変声期前のやわらかな声はいつまでも後をついて回り、振り払っても耳の奥にじわりと残る。そんなもの、蝉の鳴き声と変わらない。ただうるさいだけ。小さくても大きくてもガキは荷物でしかない。当然、友達や仲間なんて間柄でもない。

いつしかそのガキが成長し、着実に力をつけ、俺が静かに失速していくとき、あいつはごめんね、ごめんね、と泣きじゃくりながら俺を抱きしめた。守ってもらいたいわけがなかった。こんなことなら死んだほうがマシだ。お前の行動言動全てが癪に触るんだよ。
口に出せずにいれば、すぐ近くで大粒の涙が流れていく。苛々するのに、その澄んだ瞳で見つめられると息が詰まる。ただ単にきれいだと思って、そんな自分の気持ちを否定したくて、流れ込む感情に押し潰されそうになる。
まあるい満月のような、きらきらと強い光を放つダイヤモンドのような、大きく見開かれたその瞳に俺はどんなふうに映るんだろう。

春の風に攫われそうな、やわらかな子供の声はもう聞こえない。あのころとは真逆の、精悍な顔立ちをした、たくさんのものを背負った少年が笑みをたたえてこちらを見ている。そうして穏やかな表情を浮かべながら今にも唇が動く。名前を呼ばれるのだと、わかる。
気がつけば、世界を救う手のひらが差し伸べられていた。俺はそれを、掴んでしまった。
どうしてか、掴んでしまったんだ。


#声のゆくえ



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