※教育上あまりよくない表現が含まれます。ご注意ください。 背中に馬乗りになって、首に繋がる薄い帯を握った。 彼の和服の前ははだけていて、時折やわらかそうな髪ががくんと揺れる。綿菓子のようで、はちみつ色したそれ。木綿の生地に浮き出る背骨を隠すように回された腕と、荒い息遣いが聞こえる。 「気持ちいいの?」 問えば何かを言おうとしてむせたので、加減を緩めた。彼が死んだら俺は悲しいだろうか。 心底軽蔑した表情で見下ろしてやるけれど、全く同様のことを自分がしているとは夢にも思わないのだ。こうしてと言われたからしたまでで、されるのもするのも一度や二度じゃなかった。 お互いを嫌いながら好いている。大嫌いだから苦しませたい、本当は嫌いじゃないから知りたくない。どこまでなら許し合えるのか、そういうのを探り合ってる感じ。何がきっかけだったのかはもうよく思い出せない。本当に些細なことだった、小さな芽が摘まれることなく育ってしまったのは。 右手を離して、俺は立ち上がった。息の上がった日佐のやたら白い腹と平らな胸を見て、滑稽だ、と思う。これが女だったら理解できたのか。 (ありえない) ふと彼の頬骨の辺りに擦り傷がついていることに気づく。妙な達成感、込み上げてくる快感のような気持ちよさと後に残る不快感は表裏一体だ。 首元からはらりと落ちた紺色の帯を彼は嬉しそうに自分の下に置いた。舌打ちをしそうになって、無意識に唇を噛む。 「こういうの、」 いつだって俺は大事なことを口にしようとすると俯いて、言葉に困る。先を読んだ日佐はすぐさまこう言った。 「やめられるの?」 衝撃、それから衝動だった。考えが読まれているのも嫌だったけれど、ただただ真っ白な狂気が頭の中を支配していた。誘われて手が出て押し倒してからまた俺は後悔する。目の前の男がこんなにも、いっそ美しさすら伴いながら笑うからだ。おぞましい、背筋が震える。 笑い鬼と目が合うけれど、それは嘘でしかない。眼鏡なんて踏み潰してしまえばよかった。ヒビの入ったそれを見つめながら、その言葉を聞いたら最後。 「求めてるのはお前だよ、タカ」 これは人生ゲームだ。明日も明後日も明々後日も振り出しに戻るを繰り返して、一生ゴールすることはできない。 |