北風が二人の間をすり抜けていく。スカートが揺れて、剥き出しの膝が寒そうだ、と図南はぼんやり思う。視線を感じた杏は隣を見やったが、身長差があるため見上げる形になった。 目が合えば、何、と言わんばかりの嫌そうな顔。かわいくない、と杏は思うけれど、この時期のタカの耳は紅葉のように赤く染まっているので、少しだけ得をした気持ちになる。 隣にいることが当たり前だった二人は時折兄妹と間違えられたりしながら、それでも肩を並べて歩いている。枯葉がはらりと落ちて、道を埋め尽くそうとしていた。通りに面した公園では同じくらいの年齢の子供たちが遊んでおり、杏は見ないふりをしようとして、やはり気になってしまうのを抑えきれない様子だった。 「今日は冷えるね」 ぽつりと呟いた言葉だけでそわそわしているのを見抜いてしまい、図南は小さくため息を吐いた。次第に歩幅が狭くなり、最終的に歩みを止めた杏は俯いて口ごもったままだ。数メートル先でそれを待つけれど、いつまでもこうしているわけにはいかないので、先に折れた。 「寄れば」 ぶっきらぼうな優しさに杏はいつだって感謝しているけれど、それを素直に口にはしない。わかっている、わかられている、本当の兄妹のような安心感があるからだ。駆け出していく杏を見守りつつ、図南は公園の全体を見渡した。色鮮やかに染まる木々が季節を思わせた。時間が経つのなんてあっという間だ。 (あいつも俺も、今よりずっと幼かったな) ブランコを漕ぐ少女を見ながら、かじかむ手を上着のポケットに突っ込んだ。 学校の友人と外で遊ぶことは少なく、暇があれば将棋に時間を費やしてしまうので、たまにはこんな日があってもいいと図南は空いているベンチに座ろうとした。ところがそのベンチの真ん中に堂々と、自分の席だと主張するかのように猫が鎮座しているではないか。 見下ろすように睨み付けてから、その隣に腰掛けた。ふっと一息ついて暫くすると、ちらりと猫の目と目が合って、そろりと前足が伸びてくる。予測できない行動に驚く図南に対し、猫は軽やかな動作で人間の膝の上に乗り、再び背中を丸めた。人とも、ましてや動物ともコミュニケーションを取りたがらない図南は少しだけ戸惑ったけれど、腹を括って猫の毛並みをそっと撫でた。 「寒いのか」 喉元に触れると、目を細めて指先に擦り寄ってくる。天気のような気まぐれなんだろう。 喘息がひどかった頃は触れなかったな、と思い返しながら、視線を落としたままでいた。 「あ!」 弓を引いたような大きな声に、図南は肩をびくりと揺らした。あまりに聞き覚えのある声だった。同時に猫はすっと立ち上がり、杏の手をすり抜けて茂みへと消えてしまった。 もう子供ではないので追いかけたりしないけれど、しゅんと気を落とす杏を見て、図南はわしゃわしゃと頭をかき混ぜるように撫でてやる。癖のようなものだった。妹のような存在の姉弟子を、存分に甘やかす。 「猫と一緒にしないで」 彼女なりの、精一杯の強がりだった。それでも図南はことあるごとにそのやわらかな髪に触れるのだろう。 その指先に、愛しさが込められていることを杏はまだ知らない。 |