「不思議に思ってたけど、なんで?」
部室に二人きりになって、なんとなしに純は問いかける。
目線を落とせば細い腕と繋がれた鎖がそこにあった。悪意のないまっすぐな目をして、純は首を僅かにかしげている。一は眉を潜ませてきゅっと唇を結んで、手を堅く握り込めてしまうばかりでとうとう口を開くことはなかった。こうなってしまった経緯を話すか迷いに迷った結果だった。
小さく声が漏れたと思ったら、じゃらりと金属の擦れる音。掴んだ細い手首を見て、自分の取った行動を改めて驚いている純がいた。
「手が早いね」
一は笑う。挑発的な、それでいて自分を嘲るような声色だ。それでも純はやめなかった。
「解いてやろうか」
そのまっすぐな、目線が痛い。掴まれた手が熱くてひりひり焼けていく、火傷をしていくような感覚だ。
そっと目を伏せて、もう一度向き直る。純は一よりずっと背が高かったので、見上げる形になったけれど。
「いいんだ、ありがとう」
震える腕がようやく止まったとき、惜しそうに離れていく指先は一度宙を浮遊して、一の頬に触れていく。例えば唇と唇を触れ合わせるみたいな、愛しい、やわらかな気持ちがどこか伝わってきて、胸のずっと奥にある、心臓をぎゅっとつままれたみたいだ。
桃色した星を親指の腹でなぞられて、それから少しの間があったけれど、頭をぽんと撫でられる。それからはいつも通りの顔で純は屈託なく笑って、いつかそれなしで勝負しようぜと去り際に呟いた。

バタンと部室の扉が閉まって、いつしかそこにはひとりの少女だけが取り残されたとき、彼女は触れられた頬の熱さを確かめて、それから自分の指先に小さく口付けた。

果 物 ナ イ フ の 死