この世の中で俺だけが息をしていないみたい。
暗闇の隙間から、強く光を射るような目を見た。こいつの冷たい、凍てついた目を見ているとなんだかすこし悲しい気持ちになる。伸びる方向を間違えた蔓のようだからだ。
目が合ってしまうと大体は見透かされている気がしてたまらないのだけれど、その半分は違うと俺は思う。今がその半分。落ち着き払ったふりをしてゆっくりと瞬きをする。

これは、いうことをきかせようとしている目?すべてをしはいしようとしている目?おさなくてつたないものをみる気持ち?じょうよくをおもう色?
(なあほんとは全部違うんだろう、)

はじめてこんなにも、触れたいと思った。
一度だけ、いつかあいつが俺にしたときのように、降ってくるあの手がひどくやさしい、壊れ物を扱うかのような指先の感覚で。
「目、閉じてて」
一瞬だけ驚いたような表情をしてあっけなく閉じられた瞼を見届けて、俺はその頬に、ゆっくりと手を伸ばす。ふれる、やわらかな、あたたかい、すべやかな、はだ。
そろそろとおぼつかない指先で唇をなぞって、そうしたらなんだか気持ちが溢れてきそうで、なぜだか腕が震えていることに気がついた俺は思わず後ろを向いて人指し指を自分の唇に、そっと。


#つながる指先