言葉を止めたなら、一体俺に何が残る?
例えば息をするのをやめて、笑うことをやめて、目を開くのをやめて。
抜け殻の身体だけがベッドの上に転がっていて、俺はここから一歩も動けずにいる。
存在する意味を、何度も繰り返し反芻しながら、今すぐにでも自分が消えてなくなってしまえばいいのにと、陽の当たらない真っ白な手首を見て思うのだ。
涙も枯れて、唇も乾いたままで、眠れないまま朝を迎えて、病的なまでに細く弱っていく身体をそのままにしておけば俺は死ねるはずだった。

なのにどうして、どうして窓がこじあけられて、そこから光が零れていく、のが、見えて、その言葉を、俺に、投げかける。
やさしく包み込むような大きな大きな心と、確かに動いていく感情があって、救い上げられていく、ひどくあたたかな波が、俺の中で溢れていく。ゆっくりと差し出された手を、震える指が、やっとの思いでそれに、触れた。

そのときの笑った顔が、俺にはあまりに眩しくて、いつの間にか涙が頬を伝っているのに気づかなかった。おかしいな、笑いたいはずなのに、笑い方を忘れてしまったみたいなんだ。
あたたかな手が確かに俺の手を掴んで、そのすべてを、変えてみせた。
息ができなくなりそうなほど嬉しくて、悲しくて、笑いたくて、泣きたくて、すべての感情が混じって声にならない。
「こっちに、来いよ」
藤崎佑助は笑う。まるで太陽みたいに。

言葉を止めたなら。それでももう一度、俺に笑うことを許してくれる人がいるなら、俺はその人のために笑おうと思う。
(ことばを、とめても)

「スイッチ」
彼が俺の名前を呼ぶ、俺は、その言葉になりたかった。


#ことば