「何見てんだ?」
珍しく画面を覗き込んだボッスンは、力強い大きな目を見開いて俺の視界を奪っていった。目の前には赤い帽子とひねったようなくせのある黒髪があるだけだ。
俺はパソコンの画面越しにインターネットのニュース記事を読んでいた。
火星探査機、電力不足で「越冬」の可能性低い、といった見出しだった。火星探知機フェニックスは太陽エネルギーで動いているというのに、冬の火星はその太陽が昇らないというのだ。
あとどのくらい持ちこたえられるだろうか。冬は越せないだろうな、と俺を含めたくさんの人間がそれを思ったことだろう。
生まれた場所とは違う惑星へ飛ばされて、放たれた地面から水を見つけ出して、それでも生命体を探し続けるフェニックスはついに火星で死んでいく。
宇宙人はいるだろうか。そもそもそんな概念すら信憑性がないものだけれど、夢を見る、想像を語る、人間とはとても可愛い、愛しい生きものだ。
探知機は今のところ、セーフモードで待機している。いつかの俺みたいに。
「火星ってどういうとこなんだろうな」
現在の気温は昼間が-45.5℃、夜間が-96.1℃らしい、と知るとボッスンは驚いて、うおおとか言ったあとで、これじゃ住めねえなあ、と屈託なく笑った。
セーフモードのまま眠り続けて、目覚めることはないのかもしれない。奇跡が起こらない限り、春は来ないのかもしれない。
(何もないがらんどうの地面に、太陽のひかりが降り注ぐのを、待っている)
もうすぐ、凍てつくような冬が来るけれど。
#さよならマーメルス
僕は生きるよ
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元になった記事です(消えてしまったので引用しました)
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20081031-00000004-cnn-int
火星探査機、電力不足で「越冬」の可能性低いと NASA
10月31日14時24分配信 CNN.co.jp
(CNN) 今年5月に火星に着陸し、多くの観測データを収集している無人探査機「フェニックス・マーズ・ランダー」について、米航空宇宙局(NASA)は30日、迫り来る冬を越せる可能性は低いとの見方を明らかにした。
NASAのジェット推進研究所(JPL)フェニックス計画のマネジャー、バリー・ゴールドスタイン氏によると、同機は低電圧のため、現在は待機状態の「セーフモード」に入っているという。
フェニックスが着陸した北極圏は、太陽が昇らなくなる冬を目前に控え、太陽光が届く昼が短くなっている。このため、太陽エネルギーで動くフェニックスは、消費電力を抑えるため、待機状態になっている。
同機は約5カ月間にわたって火星の地表面を調査。水の存在を突き止めるなど大きな成果を上げているが、生命体の存在を示す証拠となり得る有機物は、まだ見つかっていない。
フェニックスが着陸した時、北極圏は太陽が沈まない夏を迎えており、十分な電力を得られたため、当初の予定を延長して観測が続けられていた。しかし、現在の気温は昼間がマイナス45.5℃、夜間がマイナス96.1℃。この低気温も、探査機の作動に影響を与えている。
太陽光が届かなくなれば、探査機が終わりを迎えることになる。NASAはその前に、できるだけ多くの観測データを収集する予定。しかし、冬が終わる来春、探査機の再起動を試みる。可能性は低いが、望みをつないで冬が過ぎるのを待つ。
NASAが次に火星に送り出す探査機「マーズ・サイエンス・ラボラトリー」は、来年夏に打ち上げられる予定。太陽電池のフェニックスと違い、核エネルギーで作動するため、より広い範囲で観測データを集められると期待されている。しかし、技術的な問題が発生しており、打ち上げが2011年に延期される恐れも出ている。
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