「何見てんだ?」
珍しく画面を覗き込んだボッスンは、力強い大きな目を見開いて俺の視界を奪っていった。目の前には赤い帽子とひねったようなくせのある黒髪があるだけだ。
俺はパソコンの画面越しにインターネットのニュース記事を読んでいた。
火星探査機、電力不足で「越冬」の可能性低い、といった見出しだった。火星探知機フェニックスは太陽エネルギーで動いているというのに、冬の火星はその太陽が昇らないというのだ。
あとどのくらい持ちこたえられるだろうか。冬は越せないだろうな、と俺を含めたくさんの人間がそれを思ったことだろう。
生まれた場所とは違う惑星へ飛ばされて、放たれた地面から水を見つけ出して、それでも生命体を探し続けるフェニックスはついに火星で死んでいく。
宇宙人はいるだろうか。そもそもそんな概念すら信憑性がないものだけれど、夢を見る、想像を語る、人間とはとても可愛い、愛しい生きものだ。
探知機は今のところ、セーフモードで待機している。いつかの俺みたいに。
「火星ってどういうとこなんだろうな」
現在の気温は昼間が-45.5℃、夜間が-96.1℃らしい、と知るとボッスンは驚いて、うおおとか言ったあとで、これじゃ住めねえなあ、と屈託なく笑った。

セーフモードのまま眠り続けて、目覚めることはないのかもしれない。奇跡が起こらない限り、春は来ないのかもしれない。
(何もないがらんどうの地面に、太陽のひかりが降り注ぐのを、待っている)

もうすぐ、凍てつくような冬が来るけれど。


#さよならマーメルス







僕は生きるよ
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元になった記事です(消えてしまったので引用しました)
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20081031-00000004-cnn-int