A〜Zまでのアルファベットを床に組み敷いて3つ並べ続ける。彼女はその作業を飽きるまでやり続けるのだろう。
俺は言葉の海で溺れていた。パソコンがなければ他者に対して何かを説明する手段を持たない、喉を震わせられないから、ただ酸素を吸う魚のように口を僅かに開くだけだ。
ぼくたち・わたしたちはどこかひどく似ている。対峙しているようで対比しているようでここはもっとずっと近いところ。
文字の感触の手触りは、やわらかくもありざらついているものもあり、様々だ。色も形もそれぞれ違う。人間が作り出したものは不思議なものが多い。
指で指す、俺は言葉の形を差し出した。
互いに喋らないまま目線だけ交し合うと、彼女の小指が触れて、じわりと温かい。
糸をたぐるように手を取って、揃えられたきれいな指の先、その甲に唇をそっと触れさせれば顔色ひとつ変えずにアルファベットが3つ並ぶ。
俺はその真意を理解する術を持たない。彼女が口を開いてその声が俺の耳に届くそのときまで、俺はこの小さな海の中で溺れ続けるのだ。


#教えてくれよリトルバニー