| 同性を好きになったのは最初で最後、この先二度とないだろう。今でもあの感情が何であったのか言葉では説明できないし、いわゆる普通の恋愛だったかと言われれば違う気がする。性別がどう、概念がどうという話ではなく、古泉一樹という存在に対して理解を得たかった。本音を一つも漏らさないことを憐れみ、その立場に同情した。古泉は変わらないことが安寧であると言う。そんな彼の掴みきれない存在意義にどうしようもなく恋焦がれてしまったのか、それとも変わろうとしないことへの苛立ちか。 最後まで、あいつの気持ちがわからなかったな。 古泉の表情はどうしたって薄っぺらい微笑みばかりで、その本心を暴きたくて、気持ちより先に手が動く。その行為は一度も拒否されたことはなかった。本来気持ちが通じ合ってから行うのをすっとばして、なぜかこちらが泣きそうになるのを押し殺して、古泉に触れた。俺に抱かれる古泉の目には何が映っていたのだろう。 伝われと強く願うわりに手つきが乱暴で、なぜ、どうしてと何度も自問自答していた。優しくしてあげられたことは、たぶんなかったように思う。 悔しくて、涙がこぼれないように奥歯を噛み締めて耐えた。口付けを交わせば少しくらい泣いたってバレない。 衣服を脱がすと肌の白さが際立った。触れるとひんやりとしていて、じっくりと自分の体温を分け与えていった。生きてきてこんなにも言葉が不自由だと感じたこともない。 古泉は容姿端麗だが、その顔は薄気味悪さも共存する不思議なつくりをしていた。ふとした瞬間の美しさはもうおぼろげにしか思い出せないけれど、でも確かにあの日あのとき本当に俺は古泉のことが好きだった。 大人になって若い頃の不器用さが沁みる。たらればは考えても仕方がなく、失敗という経験の上で今の自分があるならば肯定していくことが正解だ。 俺は今、幸せだろうか。古泉は今、幸せだろうか。全ての生きとし生けるものに問いかける。あなたは今幸せですか。 最後の古泉の記憶は、制服を着て胸ポケットには赤い花を刺して、卒業証書の筒を持っている。いつもの薄気味悪い微笑で、何を考えているかわからない顔で。 ちゃんとさよならが言えたのか、またいつかを同じ温度で思えていたか、定かではないけれど。 門をくぐり抜け、坂を下れば分かれ道。 さようならまたいつか。あの頃とは景色の違う坂を下りながら、そんなことを思い返すんだ。 さよーならまたいつか! |