黒い服を脱ぐ。素肌を覆っていたものを全て取り払うと、そこにいるのは夜鷹純という人物ではなく、途端に別の何かになってしまう。人の形をしたガラクタのようなもの。フィギュアスケートを取ってしまえば自分に残るものは何もないと夜鷹は自身をそう評価する。
シャワーから出てホテルの清潔なベッドに横たわれば、他人の手が自分の肌に触れてくる。よく知らない相手、自分を抱きたいという男がそこにいて、ただぼうっと天井を見上げていれば行為は終わる。ひどくされるわけでもなく、その男の手つきは優しかった。感じても感じなくても、誰かに抱かれることで安心したかったのだ。ただ体が少しでも熱に浮かされていないと不安で、そうして誰でもない誰かであることを確認したかった。
親友とセックスはしないと慎一郎くんは教えてくれた。昔から自分の感情がどのように機能しているのか区別がつかず、友情、仲間、恋愛、家族、その全てに慎一郎くんは該当していたけれど、そこには友人であるという枠を超えてはならないというボーダーラインが存在した。慎一郎くんは優しいから、求めればその全てを与えてくれたのかもしれない。与えられなくても相応するものをもらっていて、それに甘んじていた。
彼に会わなくなって数年が経つ。本当に抱いてほしかった相手は誰? 鈍い自分に問いかける。出してはいけないアンサーは一生胸に秘めたまま、無気力な誰でもない自分が空っぽになっていく。傷にすらできずに、彼との思い出だけが美しく頭の片隅にある。できることなら、ずっと一緒にいたかったな。純粋にそんなことを思っていた。子供であることと大人であること、友情であるか恋愛であるか。人間でいるには多くの選択の必要があり、曖昧にしておくことはできなかったから、距離を置いた。
今でも彼のことが好き? 答えは出さない。


# A n s w e r