あなたが死んだ日、私はまだ生まれていませんでした。
ビデオテープ、DVD、インターネットの記録。ありとあらゆる過去の映像を見ては、今もまだ射影機に映し出された光の中であなたは踊り続けている。いつかこれを見なくなるころには、私はあなたを超えているだろう。
過去の情報ほどわからないものはなく、かといって私の生きている今も本当のことを知っている人がどれだけいるのか、公にされている情報すら真相は定かではない。息をしていないときのことは知るわけがないけれど、私は必死に探して、頭に入れていった。

幼いころの自分を思い返すと、あまりにもまっすぐで周りは少し困っただろうなと思う。普通の人にはない溢れんばかりの才能があって、その全てを彼に認めてほしかった。一部の人から見れば、彼が私を利用していたような受け取り方をされるが、それでも私は構わなかった。
観客までもが芸術のひとつのような、完璧で美しい演技。憧れて、超えたくて、どんな気持ちか知りたくて、彼のことが知りたくて、手が届けばわかると思ってた。
結局のところ私は完璧にはなりきれず、ただの一人の人間だということが証明されてしまった。

とぼとぼと文明を歩き続けて、たどり着いた境地には私が想像したようなものはなくて、一切のけがれのない心と体だけが残った。もうできることが何もなかった。もぬけの殻になってそれでも胸の中に残るのは、最後まで美しい彼の魂だけだ。

「抱きしめてもいいですか」
試合を終えても、レコードを更新しても、死んでしまった彼の感情は動かなかった。キス・アンド・クライにいたのは彼じゃなかったから、触れ合うこともなかった。
「唐突になんだ」
渋さと色気が増した彼は、それでもまだ実年齢よりもずっと若く見える。黒のジャケットを羽織り、どこかに行こうとしていたところを引き止めた。だってまた会える保証はどこにもない。これが最後でもいい。きっと、今しかない。
「私ね、先生のことが好きだったの」
ずっと、ずっとだよ。
抱きしめてみると、いつもの安心する匂いがした。腕を回すとしっかりした男性的な骨格、煙草の混じったレザーの香り。もちろん無抵抗のまま、抱き返されることはない。
からっぽの両腕で、ありったけの気持ちで、一生に一度でよくて、胸の辺りに額を当てて魂の在処を探る。
「もういいだろう」
離れる直前にさりげなく頭を撫でられて、そのことに驚いていたら、彼は逃げるようにどこかへ行ってしまった。この世では漂うことしかできないのはお互い様だ。
いつか成仏できるといい。私も、あなたも。


# 魂 の 在 処