暗闇の中できれいに光る淡い金色は、酔っている目つきではなかった。
ばれない、と言っているような気がしたけれど、自分の都合のいいように捉えたか、そういうときだけ心を読ませてくれるのかわからなかった。
エイヴァとキスをするとき、信頼する人と頬を寄せ合うとき、氷の上でメダルにキスをするとき、それは多くの幸福をもたらすものであった。一方でライバルであり親友である純くんにキスをされたとき、僕は驚き、失望し、悲観していた。少なくとも幸せな気持ちで心が温かくなることはなかった。
どうしてという質問は、できなかった。おそらく彼はその理由を持ち合わせていないだろうと思ったからだ。いいや、違う。なんとなくそうなんじゃないかとどこかで感じていたから違和感がなかった。エイヴァ以上に心理的な距離が近かったのかもしれない。そのくらい仲が良かったし、この関係性に名前をつけること自体困難だった。
ベッドに押し倒されて何も言えないでいると、純くんは首筋に、鎖骨にと唇を這わせ、まるでセックスをするかのような行為を続けてきた。
「嫌だ」
手で抵抗するけれどそれにすら唇が触れて、そうまでして自分とどうこうなりたいという彼を哀れに思った。これではいつまでたっても幸せになれない。
「やめない」
言葉が足りないのはいつものことで、問い質したところで意見を曲げないだろう。彼と自分の中で正しいか正しくないかで言えば後者で、だから拒否を示した。緊張はしたが嫌悪感はなかった。そもそも彼に性欲があることが意外だったし、それが自分に向けられているとは俄かに信じ難い光景だ。流されたと言われればそうだけれど、喧嘩になって双方が怪我をするような事態は避けたかった。
キスをしたときから思っていたが、こんなにも懸命に、縋るように彼が自分を見るのは一種の愉悦をもたらした。今後一生勝てないであろうライバルに性的な目で見られ、セックスを懇願されている。こんなこと死んでも人に言えない。
行為に関してはただ身を任せていたが、女性役、男性役みたいなものはなくオーラルセックスで終わった。止めようと思えば止められたのだろうか、そんなことばかり考えていた。
──彼はきれいだ。この世の誰より繊細で、純粋無垢なのではないかと時折疑うくらいには。子供の頃からミステリアスな色気があるし、大人になったらそれはより濃く漂うようになった。氷上の凛とした空気の中で、彼の自由自在に伸びる手足のダイナミックな動き、体ひとつで表現する完璧な曲線が好きだった。昇華していく、遠く果てなき美しさ。勝利を確信した黄金に満ちる瞳。こんなはずじゃなかったのに。

「何か変わったかい」
二人して裸でベッドに並んで、汗ばんだ髪をかきあげ呼吸を整えている彼に問いかける。
「何も」
彼は少し寂しそうな表情をしていて、自分にしか懐かない獣が感情を理解したように思った。
それは僕がエイヴァと結婚すること、いつか子供が生まれて家庭を築くこと。つまりこれまで通りの二人ではいられない、そんな未来にどうしようもない無念や怒りの感情が湧き上がり、こんなことをしたのではないか。予想はあくまで独自の解釈でしかなく、結局のところ彼が何を考えているか、その真意は永遠にわからないけれど。こんなことをされてもなお、軽蔑しないなんて我ながらどうかしている。
この先、彼とまたセックスをしたところで僕は傷ついたりしない。情はあれど心までは奪われない。体をあげたところで成すものがないなら、一体誰が彼を幸せにしてくれるのだろう?
深い闇に包まれている、夜鷹純という人間の虚しさが胸に押し寄せてくる。変わらない事実だけが、そこに残る。

僕は彼を許す。一生の不理解を持って、ありったけの情で彼を抱きしめて、いつか金メダルを獲る。それだけだ。


# 変 わ ら な い も の