涙を流すことは容易い。それは嘘の涙というやつで、全てを帳消しにしてしまえるゲームで言うところの裏ワザ的なものだ。この場合でもそれは適応される、例えばセックスしている時とか。それは何故かというと相手が無防備だから。 人を騙すにはタイミングが一番重要で、そうして今この時という時で私は泣いた。有栖川帝銃という人間を騙すには効果があったようで、狼狽える姿を見ているのは気味がいい。きれいに騙されてくれた帝銃には褒美をやろう。 「嘘ですよ。あれだけ慣らして痛いなんて、ありえないでしょう」 犯されながら、小生はくすくすと笑った。 「ハー!? 本気かと思っただろバカヤロー」 目をまん丸くして驚く彼もまた乱数と同じように表情が豊かだ。乱数とは違い、あざとさがなくて、なによりも現金。 「……そういうのは、もうちょっとわかりやすいときにやれよ」 ごしごしと目尻を指先で雑に擦られると、その無意識の優しさに絆されそうになる。 そうしてすぐさまセックスが再開されると、足と足が絡み合ったまま、肉体のぶつかり合う音がして、幻太郎は先程と同じように演技で声を出す。自分の中で他人が暴れ、打ち付けられ、その激しさが振動になって頭のてっぺんから足の爪先まで伝わってくる。 ──したいと言われて断る理由がなかった。理由を尋ねればなんとなくと言われ、そんな彼が嫌いではなかったから。どんな顔で人を抱くのか興味があった。自分を対象にされることの意味を深く考えていなかった。自分と彼は同じくらい浅はかだ。 中に出されると、やっと終わったという安堵と、自分のものも扱かれていつの間にか射精していたので、色んな気だるさが襲ってきた。全てが面倒だ。 彼が射精する時の顔は、喉元を仰け反らせて、祈るみたいにか弱く瞼を閉じていた。顔色から興奮と高揚が見て取れて、始終本能のままに動いていて、彼らしくてよかった。五感で感じ取れる素晴らしい一項目。それが性交。 「なー、気持ちよかった?」 労わるように頭を撫でてきたので、てっきり、はい終わり、さっさと寝ようぜ的な展開を想定していただけに驚いた。女の子にはこうするのかもしれない。 「……よかったですけど、何も出ませんよ」 よかったのはテクニックでもなんでもなくて、ただ彼が素直でとても正直であったことに対して賞賛を与えた。中身なんてどうでもよかった。 「ならいーんだけどよ」 何か心の内側を覗かれている気がして、バツが悪かった。帝銃がちゃんと相手のことを読み取ろうとすることが、意外だった。 「またしよーな」 「はあ」 帝銃はもぞもぞと布団にもぐって、寝息を立て始めた。おそらく二度目はないだろう。そういうところが彼のいいところだと思いながら、一人、冷えた風呂場へと向かった。 嘘の涙 |